バイオ茶の宮崎上水園

創業明治二十九年 バイオ茶の宮崎上水園

STORY 宮崎上水園のお茶づくり 「急がず、休まず、怠らず」

Vol.18

「はじかき会」から広がる、すこやかな循環 01

「我以外皆我の師なり」とは、作家・吉川英治の言葉です。自分以外のすべては皆、自分自身の師匠。人も、動物も、植物も、自然界のすべてがそうです。「はじかき会」においても互いにたくさんの学びがあります。

宮崎市田野町のユリ農家、川添安博さんとのお付き合いは20年、バラ栽培の矢野正美さんと来られたのが最初です。あちこち視察し、さまざまな方法を取り入れるもののなかなか持続しないと言います。その原因は何か、ハウスを見せてもらいました。そこでまず感じたのは暑さ。「これでは、ユリの呼吸が止まるでしょう」と、川添さんに言いました。

ユリにしても、お茶にしても、植物はすべて自分からは呼吸できない。だから、その植物に合った、環境で育てることが大事なのです。ユリの花が環境に合っていないから、うまくいく時と、いかない時の差が生まれる。ハウス栽培では特に、その作物に合った環境づくりが重要です。川添さんに限らず、ほとんどのハウス農家が、「暑くなったら開ける/冷えてきたら閉める」を繰り返していて、温度の高度利用があまりできていません。

温度の高度利用とは、ハウス内の温度と外気温の差を利用し、ハウス内に気流をつくり出すことです。これが、自然界の「季節」をつくります。春先に梅の花が咲き、桜の花が咲いて、茶が芽吹く。これらはすべて環境によって変化していきます。このことを常に考えながら作業すれば、植物は本来のリズムで成長し、失敗も最小限に食い止められます。

「ハウスの中に気流をつくることで、植物の活性が高まる」。川添さんは当初はあまりピンと来なかったようですが、実践する中で、目を見張るほど変貌していきました。早朝、太陽の光がハウス内に差し込んだら、外気が冷え込んでいても、ほんのわずか5cmほど開ける。急な温度上昇を避け、全体は冷えすぎないように、そんな小さな取り組みからスタートしました。次にはじめたのは、ハウスの片方だけを開ける取り組み。そうして外気が入ることでハウス内に低圧部ができる。湿った気流は低圧部へ流れ、ハウス全体に大きな気流の渦ができる。この変化が、ユリの生命を強くするのです。川添さんはそうして、ユリの生育を早めること、遅らせることを体得しました。いまでは化成肥料や農薬を使わず、有機堆肥とハウスの環境管理によって、美しくたくましいユリを育て上げています。

視察に来た人がまず驚くのは、ユリにネットが張られていないこと。通常、ユリが倒れないようにネットが張られる。けれど、川添さんのユリは幹が太く、しゃんとして倒れない。地面に近い葉までピンとして落ちず、なにより花の色が鮮やか。白は白でも純白、透き通って見える。美しいまま長く咲きつづけるユリが、人々に感動を与えています。


宮崎市田野町のユリ農家、川添安博さんのハウス内。天に向かってすくっとユリが立つ
宮崎市田野町のユリ農家、川添安博さんのハウス内。天に向かってすくっとユリが立つ
上水園恒例、8月10日のバイオ茶の日に川添さんのユリを飾って皆様をお迎え
上水園恒例、8月10日のバイオ茶の日に川添さんのユリを飾って皆様をお迎え